国連人権委員会の度重なる決議

洪祥進(朝鮮人強制連行真相調査団朝鮮人側事務局長)

すでに、「狭義」の強制について話があったので、私は「広義」、すなわち精神的強制にについて話します。

 上の資料は当時の最高裁判決(大審院)の抜粋です。

1932年1月、長崎県の日本人「慰安婦」斡旋業者が、「いい仕事がある」「お金がたくさんもらえる」「カフェですよ」と称して、長崎の日本人女性を日本人斡旋業者が中国上海の日本海軍「慰安所」連行しました。結果この事件は、一審、二審、そして最高裁。1932年から5年後の1937年に大審院、現在の最高裁で有罪という決着がついています。

 先日、中国人の強制連行「慰安婦」の問題で最高裁の判決があったのですが、あれを見てよく理解ができないのですが、まだこの当時の最高裁の判決が、きちっと対応したのではないかなと思います。



1. 強制連行とは「肉体的」及び「精神的」強制

 「朝鮮人強制連行」とは何なのかをまとめると「軍事的性奴隷(慰安婦)、『労務動員』(炭鉱、土木作業、軍需工場等での男女の労働)、軍人・軍属これらすべての連行形態を包括する概念である。当時すでに国際法及び国内法で『強制』とは、肉体的・精神的強制を含んでおり拉致、強要、詐欺等がこれに該当する」。

 例えば「法学辞典」(末川博著、1971年)では、「強制」とは「物理的もしくは心理的圧力を加える目的活動」としています。

 1909年の「大日本百科辭書法律大辭典」では「強制」を「必ずしも身体に対する侵害たることを要せず、財産名誉に対する侵害を以って脅迫の場合をも包含するものとす。」としています。

 日本政府も既に国会で「慰安婦」問題の「強制というのはどのような内容」ですかという清水澄子議員の質問に対し、「いろいろな意味合いがあろうと思いますが、ごく自然に強制ということを受け取りまして、その場合には単に物理的に強制を加えるということのみならず、おどかしてといいますか、畏怖させてこういう方法を本人の自由な意志に反してある種の行為をさせた、そういう場合も広く含むというふうに私どもは考えております。」(参議院1993年5月3日、参議院予算委員会。谷野作太郎内閣官房内閣外政審議室長)と答弁しています。

 安倍さんが首相になると、最高裁の判決もひっくり返し、国会答弁も政府の見解もひっくり返せるのでしょうか。そんなことができるはずがないんですが。

 ポイントを整理すると「慰安婦」被害者には「肉体的強制」と「精神的強制」による連行があった。しかしいずれも拉致、強要、詐欺による自由・名誉に対する侵害であり「強制連行」である。「肉体的強制」のみを「強制連行」と意図的に規定し、いわゆる「狭義の強制」として、「慰安婦」問題には「強制連行がなかった」との視点は、結局は自由と名誉に対する基本的人権が何であるのかを理解していないと言えます。

 

2. 日本政府による「慰安婦」の強制連行と情報公開

 次に、日本政府による「慰安婦」の強制連行と情報公開についてお話します。

 十数年前のことですが、1992年4月21日付けの朝日新聞(夕刊)で公表した内容を説明します。「慰安所施策―政府機関の推進の資料」として国立公文書館から発見された閣議決定の資料があります。1942年11月27日の「中国人強制連行に関する」閣議決定に含まれた企画院の「極秘」文書です。そこには、「慰安婦の募集法、経費並びに輸送方法…合法的に動向せしめることととす」と記録されていました。追跡調査により、富山県の慰安所に中国人女性が連行され日本人監督が慰安所に通ったとの証言が確認されました。すなわち、閣議決定に基づき強制連行が行われていたのであり、政府の関与は明確です。

 この資料は、日本国内への中国人「慰安婦」の連行に関するものですが、本格的な調査を行えば朝鮮総督府関係の朝鮮人「慰安婦」の連行資料も当然出てくるでしょう。この資料は戦後GHQにより接収され米国から返還されたもので、ゆえにこのように確認されたと考えられます。すなわち米国ではマイクロフィルムとして公開されているのでやむを得ず日本国内でも公開されたのではないでしょうか。ちなみに、この閣議決定の時の商工大臣は岸信介で、お孫さんである安倍首相が最も尊敬する戦犯容疑者です。

 日本国内で妄言などが相次ぐ要因のひとつに、情報の非公開があります。例えば、極東軍事裁判の判決には、慰安所を設置し、戦争犯罪として処罰された資料が法務省にありました。また朝鮮総督府関連の膨大な資料は自治省が引き継ぎ整理すらされていません。日本政府は、当時の資料を、研究者はもちろん国会議員にすら非公開としています。

 付け加えるならば、当時ドイツも500万人、600万人という強制連行、強制労働を行いました。ヨーロッパ各地から連行しているんです。ドイツの戦争犯罪を裁いたニュールンベルグ裁判では、ドイツによる強制連行を推進した労務動員全権F・ザウケルは戦争犯罪人として絞首刑となりました。かたや日本では、商工大臣が首相にまでなり、その孫さんが一生懸命、祖父を擁護しているわけです。どう考えてもおかしいですね。

 

3. 国連決議と日本政府の対応

 次に、国連決議と日本政府の対応について話します。

 

※国連決議と日本政府の対応(1992.2-1995.3 概略)

朝鮮人強制連行真相調査団「資料集8」(1995.5)より

※小委員会:国連人権委員会差別防止小委員会 作業部会:現代奴隷制作業部会

 

 資料には9つの国連決議とそれに対する日本政府の対応を載せました。

 問題なのは日本政府の対応です。例えば、資料の一番上、1992年3月の人権委員会。このときは、戸塚悦朗弁護士(現龍谷大教授)が初めて「慰安婦」問題を発言しました。それに対して日本政府は、首相がお詫びしました。そして「国内で訴訟が行われており補償について言及する立場にない」と発言しています。

 次に1993年3月の人権委員会で日本政府は、「国連は創設以前に起きた問題を解決する機関ではない」と対応しました。「慰安婦」問題は国連創設以前の問題である、だから国連で扱うべき問題ではないということです。この日本の主張が通っていたら、以降「慰安婦」問題の国連の決議は無かったと思います。このとき朝日政府の激しい論争がありました。結果として朝鮮政府の主張により創設以前を含む「全て」の問題を含むとして以降「紛争下などで特に女性に向けられた全ての暴力及び重大人権侵害を非難」するとの決議が出されました。もちろん決議採択となると日本政府は賛成しましたが。

 もうひとつ、1993年8月の小委員会のとき、日本軍の「慰安婦」、強制連行問題などを調査する特別報告官を任命し2年以内に調査をまとめることを内容とする決議が採択されました。このことは読売新聞を始め日本の各新聞が1面で大きく報道しました。このときも、日本政府は大反対したにもかかわらず、決議が採択されると「協力の意向を固めた」と報道されましたが、態度をころっと変えています。

 

4. 女性への暴力に関する特別報告者の報告書

 次に、女性への暴力に関する特別報告者ラディカ・クマラスワミによる報告書について話します(この報告はよく知られているので経緯は省略)。

 1995年の特別報告者の予備報告書では「第2次大戦後約50年が経過した。しかしこの問題は過去の問題ではなく、今日の問題とみなされるべきである。それは武力紛争時の組織的強姦及び性的奴隷制を犯したものの訴追のために、国際レベルで法的先例を確立するであろう決定的な問題である。象徴的行為としての賠償は、武力紛争時に犯された暴力の被害女性のために補償による救済への途を開くだろう」と書かれています。

 私は特別報告者と対談する機会がありその時、「国際レベルで法的先例を確立するであろう決定的な問題である」とはどういうことなのかと聞きました。すると「これは慰安婦被害者だけの問題ではないんです。こういった問題が解決されないと、現在の女性たちの人権はどうなるんですか? すべての女性の問題、このことから国際的な平和を構築する基礎としたい」と言いました。私は「ああ、そうなのか」と思いました。

 なぜ「慰安婦」問題をやるのか。「慰安婦」問題に現在の平和と人権のすべての問題とつながっているというわけです。

 しかし、日本政府は1996年の人権委員会でクマラスワミ報告を阻もうと、この報告はとんでもない報告だという内容の文書を世界の人権委員会理事国に送っていました。しかし、これも糾弾されると撤回してしまいます。

 報告書では日本政府への勧告として、国家レベルで、a. 法的責任の受諾、b. 原状回復と賠償、c. 資料の完全な開示、d. 書面による公的謝罪、e. 教育内容を改める、f. 犯罪者の処罰―というものです。教育内容を改めるという勧告内容により、中学の教科書に「慰安婦」問題が盛り込まれました。しかし、現在、残念ながらほとんど削除されました。

 勧告では、国際的レベルでどうすればいいのか、日本政府にヒントを与えています。そのなかで、「朝鮮民主主義人民共和国及び大韓民国は、「慰安婦」に対する賠償の責任及び支払いに関する法的問題の解決をうながすよう国際司法裁判所に請求することができる」とあります。日本政府が認めたくなかったら、国際司法裁判所に行ってきちんと判決をもらえばいいと言っています。絶対に行かないでしょう。負けるから。

 この勧告が含まれた決議の時にも、日本政府は賛成しています。ころころと態度を変えている日本が安保理の常任理事国入りを狙っても、世界が信用するはずがありません。

 

5. 安倍首相の二枚舌

 今回の国連人権理事会にも行ってきました。とくにひどかったのは、EUをはじめ多くの政府が阿部首相の「二重基準」として驚き怒っていました。なぜかと言いますと、安倍さんが首相になった以降、韓国、中国を回ってきましたね。そこでも「拉致」「拉致」。今年1月にイギリス、フランス等でも「拉致」「拉致」。ところが一方で日本による重大な人権侵害である「慰安婦」問題は「狭義」の強制はなかったと言うものですから、怒るでしょ。当然です。「あなた、ちょっと前までは何を言っていたの」となります。

 3月24日付けで、「二枚舌の安倍晋三」と題した米紙ワシントンポストの社説が出ました。この社説は国連人権委員会でも400枚以上、私たちが配布しました。

 この社説に「拉致問題についての日本の要求に対して、なかなか応じようとしない北朝鮮に、安倍が苛立ちを感じているのはわからないことではない。しかし、声高に北朝鮮を非難しながら第二次世界大戦中、少なくとも十数万の朝鮮の女性を拉致したうえ、彼女らを強姦し、性奴隷にした日本自身の国家犯罪に対しては、その責任を回避するばかりか、そのような事実があったことさえ否定しようとする安倍の態度は、単に理解しがたいということを越え、不愉快きわまりないことだと言わざるをえない」と書かれています。また、次のようことも書かれています。「日本の政府が今に至るまで被害者たちに対する責任と賠償を回避してきたことも褒めたことではないが、すでに発表されている『河野談話』のようなものさえも、これを否定しようとしているのは、少なくとも名だたる民主国家を自称している国の指導者としては恥ずべきことだと言わざるをえない」。
 この社説は最後にこのように締めくくっています。

 「北朝鮮に拉致された日本人について、その現況を知るうえにおいて、もし日本が国際的な支援が必要だと思うならば、安倍自身が、かつて日本が犯した犯罪に対して、その責任を認め、そして日本によって侮辱にされされた被害者たちに申し訳なかったと謝罪することこそが必要ではないか」。

 このような認識が国際的な趨勢です。

(社協ブックレット No.010)